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ダンまち SS(サイドストーリー) エイナさん 『眠れない夜』

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ダンまち エイナさん(エイナ・チュール)SS (サイドストーリー)『眠れない夜』

読者のみなさま、ごきげんよー

同人サークル The sense of sightのBLACKGAMERです

2019/04/13 リンクや検索結果などを修正(本編の修正はなし)www.black-gamer.com

13巻の発売が待ちきれない&エイナさんにもっと出番を…

そんな想いがあふれだした結果、もうどうしようもなくなってSSを書くに至りました

エイナさんメインのお話ですので、気軽にお楽しみください

ダンまち エイナさんのSS 『眠れない夜』概要

  • エイナさん視点
  • 登場人物はエイナさんのみ(オリキャラなど一切ありません)
  • 時系列はダンまち原作11巻~12巻のあたり

ダンまち エイナさんのSS『眠れない夜』あらすじ

アステリオス(黒いミノタウロス)に負けたベルを想って、眠れない夜を過ごすエイナさん

ただ、ベッドの中で物思いに耽(ふけ)るだけじゃなく、ベル君のために出来ることを探します

受付嬢の抱く恋心と眠れない夜、お楽しみください

ダンまち エイナさんのSS 『眠れない夜』本編

ベッドで愛用の毛布をかぶって、瞳を閉じる。

でも、いつまで経っても睡魔は私の元まで来てくれない。

ギルドの受付という仕事は、座って笑顔を振りまき、おしゃべりをするだけじゃない。

迷宮都市≪オラリオ≫の中でも高給取りとされているけれど、それに見合う程度には、肉体的にも精神的にも激務だ。

だから、寝なければ明日の仕事に差し障る。

それが分かっているのに、眠りにつくことができない。

元々、そんなに寝つきは良くないし、眠れない夜なんて珍しくもなかった。

それでも、目を閉じて自分と根競べをしていれば、いつかは眠ることができていた。

なのに、最近では、それさえできない。

なぜかといえば、私には誘惑があるからだ。

元々大きくて持て余していたのに、ここ数日で、驚くほどに成長してしまった誘惑が。

『涙を流して悔しがる彼の力になりたい』

黒いミノタウロスとの激闘に負けた彼を見て、そう思ってしまった。

あの時のベル君を見て、心を締め付けられるような声を聴いて、理屈ではなく、私の心がそう感じてしまった。

自分が眠るよりもやりたいことを、見つけてしまった。

だから、今夜もその衝動に抗(あらが)うことができない。

ベッドの上で身体を起こし、メガネをかけてため息を一つ。

そして、寝間着の上にストールを羽織り、机の上の明かりを灯(とも)した。

机の周りだけを照らす、ほのかな明かり。

こんな暗い中で本を読むから、もっと目が悪くなるのだという自覚はある。

それでも、これが一番集中できるのだから、しかたない。

「一番集中できる……か」

自分の思考に、自分で笑ってしまう。

元々、仕事では手を抜くことができない性分だけれど、これはもう根本から違う。

私は、これからやることに対しては、私の持てる全てを使い切りたいのだ。

そうでなくては、この数カ月で驚くほどの偉業を達成したベル君に教える資格などない。

だから、自分の視力の低下なんて、全然気にならない。

と、言っても、あの笑顔がちゃんと見られなくなるのは困るから、調整にはそのうち行かなきゃいけないけれど。

「まったく」

我がことながら、ここ最近の思考には自分でも呆れてしまう。

こんなにも自分が惚れやすい性格だったのかと、驚いてしまう。

前から、そんな兆候はあったけれど、自分でブレーキをかけていた。

だから、きちんと冒険者と受付嬢という立場の違いを理解し、節度を持って止まれていた。

なのに、今は歯止めが効かなくなっている。

そして、そんな歯止めの効かない自分を心地よく思っている自分がいるのだ。

横道に逸(そ)れようとしている思考を止め、本棚へと手を伸ばす。

分厚い本を数冊ひきずり出し、次々に机の上へ広げていった。

買うときに家具屋の店主に大きすぎるのではと心配されたテーブルが、またたく間に本で埋まってしまう。

実際、今までの私ならここまで複数の本に頼る必要はなかった。

ここまでする必要があるのは、ひとえにベル君の成長が早すぎるせいだ。

「上層、中層と踏破したら、次はもちろん下層になるよね」

ヘスティア・ファミリアの注目度は、新興ファミリアとは思えないほどだ。

ベル君の最速偉業≪ランクアップ≫を筆頭に、LV.2のメンバーも増えてきた。

近いうちに、きっと、強制任務≪ミッション≫が発令されるだろうし、そうでなくても、下層に行くのは時間の問題だ。

だから、そのためには、私も勉強しなくてはいけない。

私の担当していた人やファミリアの中には、下層に到達する一党≪パーティー≫も、いないわけじゃないけど、上層に比べれば少ないし、私の知識だって不十分だ。

そもそも、迷宮都市≪オラリオ≫にいるファミリアの中でも、下層に到達できるファミリアは限られている。

必然的に、ギルドで共有されるのは、初心者への手厚いフォローとなってしまう。

ギルドでたびたび行われる勉強会も、そういった上層向けのものがほとんどになっている。

だから、知りたければ、どうしても本に頼るしかないのだ。

もちろん、ギルドの同僚の中には、下層に詳しい人も多い。

ミィシャも、ああ見えて下層のモンスターについては私より詳しいし、おしゃべり好きのおかげなのか、冒険者から聞いた迷宮にまつわる豆知識も多い。

だから、私としても積極的に質問をして、情報を集めているのだけれど……。

ここ最近の私の熱意は、周囲から見ても『ほんのすこし』行き過ぎているように見える、らしい。

おかげで、話を聞こうとすると敬遠されてしまうことがあるのだ。

もっと情報があればベル君のためになる、そう思うあまり、つい話に熱が入り、聞きすぎてしまう。

けれど、こんなことを続けていれば、教えてくれる人はいなくなってしまうだろう。

だから、聞く回数を絞らなきゃならないし、そんなときに、本で分かることを聞くのはもったいない。

私が聞きたいのは、私が本を読んでも手に入れることができなかった知識なのだから。

もっと、もっと知識と情報を私に。

戦うことができない私に出来ることなんて、それぐらいしか、ないのだから。

そう思いながら、目の前にある本の山を私の中へと吸収していく。

でも、私の中にあるのは、そんな悲痛な想いだけじゃない。

山積みの本を読んでいても、頭をよぎるのは、ベル君の事ばかりだ。

ベル君なら、どんな質問をするだろう?

ベル君に教えるのなら、どんな情報が大切になるだろう?

そう思ってしまうから、ページを繰る手を止めることができない。

モンスターだけでも、出現階層、特徴、分布に弱点と覚える項目を挙げればキリがない。

階層ごとのマップやフィールドの特性、過去の事例と紐づけた注意点まで加えたら、際限がないだろう。

それでも、厄介事を引き付けやすいベル君なのだから、どんなに教えたって教え足りない。

「本当に、心配させてばかりなんだから」

放っておけない。

ベル君への想いを一言で表すのなら、それが、一番しっくり来ると思う。

頼りなくて世話が焼けるし、何かある度に心配になってしまう。

だけど、そうして私が手を差し伸べ、屈託なく喜んでくれる彼の笑顔が心地よいのだ。

『エイナさん』

微笑みかけてくれるベル君の姿を思い出し、机の隅に目をやる。

そこに置いたカレンダーには、たくさんの思い出が綴(つづ)られていた。

仕事の一環、と自分に言い訳をしてきたけれども、そろそろ正直に認めたほうがいいのかもしれない。

受付嬢として私が担当している冒険者は、ベル君だけじゃない。

でも、このカレンダーに書いているのは、ベル君のことだけなのだから。

ベル君がギルドに来た日。

ベル君と買い物に行った日。

ベル君が私の護衛をしてくれた日。

ベル君が私の誘いを断って部屋にあがってくれなかった日。

今までのベル君との思い出は、全てここに記されている。

「はぁ……」

体内で持て余した熱を吐き出すように、ため息をつく。

それでも、熱は引いてくれないし、意識すればするほど増してしまう。

鏡を見れば、同僚にからかわれている時と同じぐらいに頬が赤い自分が映っているだろう。

恥ずかしい、けれど、そんな自分も悪くない。

最近は、そう思えるようになった。

「そういえば……」

カレンダーを見たおかげで、給料日が間近だったことを思い出す。

同僚たちとの間でもたびたび話題になるけれど、私はそれほどの思い入れがなかった。

今までに浪費してこなかったおかげで、貯金はそれなりにある。

そのおかげなのかもしれないけれど、私は給料日でも心が弾まない。

それに……。

私のお給料は、お金よりも彼の笑顔がいい。

そんなことを考えてしまったりする時点で、私はもう、かなり重症なのかもしれない。

「本当に、ベル君に養ってもらおうかな」

そうすれば、もっと彼のためだけに時間が使えるのに。

面と向かってじゃなければ、大胆なことをつぶやくことぐらいはできるのに。

ベル君の前では、お姉さんらしく振る舞うことが精一杯だ。

もっとも、それさえも、最近では難しくなっているけれど。

集中力を取り戻すためと言い訳をしながら、コーヒーを淹れに行く。

部屋を満たす香りが、私の目を冴えさせる。

そう、これはコーヒーの香りのせいだ。

間違っても、ベル君のことを思い出してドキドキしているからじゃない。

でも、やっぱり。

今夜も、眠れない夜になりそうだ。

後書き

エイナさんのベルへの想いや日常生活を描いてみたくて書き連ねました

少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです

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